「未完了のことほど、人は気になってしまう」

ツァイガルニク効果という名前で、接客に使う図解がよく回ってきます。「今度、私と一緒に行きたいところがあるんだけど…」「まだ詳しくは言えないんだけど…」といった例が添えられているものです。

効果そのものは、実際に知られているものです。ただ、あの図解のとおりにやると、危ない方向に行きます。

使える形と、やってはいけない形を分けて書きます。

ツァイガルニク効果とは

心理学者ブルーマ・ツァイガルニクが1920年代に報告したもので、完了した作業より、途中で中断された作業のほうが記憶に残りやすいという現象です。

ドラマが盛り上がったところで次回に続いたり、記事が「続きはこちら」で切れていたりするのは、この性質を使ったものです。

ただし、断っておくことがあります

後年の追試では、条件によって出たり出なかったりすることが報告されています。

<a href="blog-shimei-kaiwa.html">前回の記事</a>でも同じことを書きましたが、これは人の傾向を説明するものであって、公式ではありません。

「心理学的に証明されているから効く」という言い方をする人は信用しないでください。目の前の相手を見るほうが早いです。

席で安全に使える形

使いどころは、恋愛ではなく、会話です。

ツァイガルニク効果を席で使う流れ。さりげなく相手の予定を聞き、続きを残したまま終わらせる。相手の中に未完了の記憶が残り、次に来たときにこちらから切り出すと「この人は自分の話を聞いてくれる」という印象になる。未完了にするのは、自分の情報ではなく相手の予定。

※イメージ図です(AI生成)。在籍されている方ではありません。

1|切りのいいところで終わらせない

話が一番おもしろいところで、時間が来る。そこでまとめないで終わります。

「その話、長くなるので次にしますね」

無理に「続きが気になるでしょ」と煽る必要はありません。きれいに完結させないだけで十分です。

逆に、初回で自分のことを全部話してしまうと、次に話すことがなくなります。

2|自分の話を出し切らない

前回、会話は相手7・自分3と書きました。この3のほうを、毎回少しずつ出します。

出身、前職、趣味。一度に全部答えないで、一回につき一つ。

これは駆け引きではなくて、7対3を守っていれば自然にそうなります。自分の話が3割しかないので、そもそも全部は出せません。

3|次に確認することを1つ残す

これが一番実用的です。

「来週の出張、帰ってきたら結果教えてください」

相手の予定について、続きを残します。自分の情報を出し惜しむのではなく、相手の話を未完了にする。

そして次に来たときに、こちらから切り出す。<a href="blog-shimei-kaiwa.html">覚えていることが効く</a>という話と、これは同じことです。

やってはいけない形

図解でよく出てくるのは、こちらです。

「今度、私と一緒に行きたいところがあるんだけど…」 「まだ内緒なんだけど、楽しみにしててね」

これはやめたほうがいいです。

理由が3つあります。

1|期待は、裏切られると反転します

未完了のまま期待させたものは、いつか完了させるか、うやむやにするしかありません。

うやむやにしたとき、相手の中に残るのは「気になる」ではなく「騙された」です。好意が強かったぶんだけ、反転したときの強さも大きくなります。

「もう来なくなった」で済めばいい方です。済まないことがあります。

2|私的な関係を期待させると、自分の安全を削ります

「今度2人で」という含みを持たせる営業は、店の外での関係を期待させることになります。

お客様との連絡先交換については、店によって扱いがまったく違います。不要としている店、任意としている店、必要としている店があります(取扱店舗のページに、店ごとに記載しています)。

店がルールを設けているのは、働く人を守るためでもあります。そこを自分で越える営業をすると、店も守れません。

3|続きません

未完了で引っ張る営業は、毎回引っ張り続けないと成立しません。

一度「次こそは」と思わせたら、次も、その次も同じ強度が要ります。やっていて消耗します。

前回書いたとおり、ナイトワークは継続が命です。1か月で辞める方が多いのは、こういう消耗の仕方をしているケースもあります。

ここまで読んで、自分の場合はどうなのかが気になった方へ。

質問だけでも構いません。しつこい勧誘はしません。

図にすると、こうです

ツァイガルニク効果の使い分け。左は自分の情報を未完了にする使い方で、期待がふくらんだあとうやむやになり「騙された」が残る。右は相手の予定を未完了にする使い方で、書き留めて次回に切り出すことで「この人は自分を見ている」が残る。

同じ心理を使っていても、向ける先が自分か相手かで、残るものが逆になります。

結局、どちらが強いか

図解のやり方は、「この人といると気になる」を作ります。

覚えていることのほうは、「この人は自分を見ている」を作ります。

後者のほうが強いです。しかも消耗しません。覚えてメモするだけなので、毎回テンションを上げる必要がない。

そして、覚えていることは裏切りません。期待させていないので、裏切りようがないからです。

組み合わせるなら

一番いい形はこれだと思っています。

  1. 相手の話を7割聞く
  2. 「その後どうだったか」を確認する約束だけ残す
  3. 自分の話は、一回につき一つだけ出す

未完了にするのは、自分の情報ではなく、相手の予定です。

ここを入れ替えるだけで、危ない使い方は全部なくなります。

まとめ

  • ツァイガルニク効果は実在しますが、公式ではありません。再現性の議論もあります
  • 使うなら会話に使う。話を完結させない、自分の話を出し切らない
  • 未完了にするのは、自分の情報ではなく相手の予定
  • 恋愛的な思わせぶりで引っ張るのはやめてください。反転したときの反動、安全、消耗。3つとも割に合いません
  • 覚えていることは裏切りません

心理の話は、知っていると視野が広がります。ただ、効くと言われている型をそのまま真似すると、だいたい浅いところで止まります。

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